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O次郎の足のこと(10)~新たなトラブルを抱えて [足のこと]

小学校へ入学して、間もなく、

学校の階段から、転げ落ちてしまったO次郎。


クラスのみんなより、少し早めに夏休みに入り、

階段での記憶も、日々、薄れているように見えた。


ところが、放課後デイサービスに行こうとした日、

階段での体験から、新たな問題が生まれたことを知った。


小雨が降りかかけっていたため、傘をさして歩くのはやめて、

放課後デイサービスの近くまで、バスで行こうとした時のこと。


O次郎は、バス停で、U一郎とともに、

久しぶりにバスに乗ることを、ウキウキして待っていた。


バスが止まってドアが開き、まず、U一郎がステップを上った。

次は、O次郎が乗る番。それなのに、じっとして動かない。


「どうしたの?早く行きなさい?」

先にバスに乗ったU一郎が気になり、つい、O次郎をせかす。


「ィイヤダァー!イヤダーァッ、乗らないぃぃーっ!」

お尻を後ろに突き出して、勢いよく後ずさりしたため、

私は、後ろに尻もちをつくように、転びそうになった。


「O次郎っ、ねぇ、O次郎。だいじょうぶよ。」
「ママがいるから、絶対、落ちたりしないよ。」

思わず、言ってしまった言葉に、O次郎は激しく反応した。


「イヤァァァーッ!イヤァ―ッ!落ちない、落ちないーっ!」


O次郎は、手を握りしめて、強く肩に引き寄せ、

その場で、全身を小さくちぢこまらせて絶叫した。


「どうしよう。U一郎を下ろさなきゃ、U一郎、、」

O次郎が走りださないように、O次郎のTシャツを片手でつかみ、

慌てふためきながら、バスの中を覗き込むが、

奥の方までは見えず、U一郎がどこにいるかわからない。


ドクゥッ、ドクゥッ、ドクゥッ、、

首の横あたりで、血がドウドウと勢いよく流れている気がした。


「U一郎、降りて!今日は乗れないから、降りて!」

そんなことを、遠くから言ってみたところで、

U一郎ができるわけないと、ぼんやり思いながらも、

言葉が、勝手に、口から飛び出していた。



すると、バスに乗っていた年配の女性達がの声が聞こえた。、

「あなたのことじゃない?お母さんが呼んでいるわよ。」

「ねぇ、立って。あれ、お母さんでしょう?」


その時、私の後ろに立っていた初老の男性が言った。

「この子、ちょっと見ておきますよ。呼んで来たら?」


「すいません、お願いします。O次郎、ここにいてね。」

男性にそう言って、駆け上がるようにバスの中に入った。


U一郎は、バス後部の二人掛けの席に一人で座り、

前席のイスの背もたれを、両手でつかみながら、

ニコニコして、窓の外を眺めていた。


イスに座るU一郎に駆け寄り、祈るように言った。

「今日は、降りるよ。ごめんね。O次郎、調子悪いの」

U一郎は、いつものように、私なんて見えないかのように

微動だにせず、窓の外をご機嫌で眺めている。



私は、片手をU一郎の両手に添え、片手をU一郎のほほに当て、

U一郎の耳に近づき、何度もささいた。

「降りるよ。降りるよ。今日はおしまい。また乗ろうね。」


「この子、どうしたの?わからないの?」

「急いでるんだけど。降りるなら、早くして下さい。」

そんな声が、車内から上がった。



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「ママさーん、まだかなぁ、この子、どっか行きそうなんだけど」

バスの外から、O次郎を見守ってくれているらしき人の声も、聞こえた。


そして、バスの運転手さんの声も、車内に響いた。

「すいません、お客さん。時間なので、急いでもらえますか」



これ以上ないほど、緊張し、動揺しながら、

「早く、早く、U一朗を!失敗しないように!早く!」

と、強く、強く思った。


そして、U一郎の片手を握り、腰を抱えるように私の手を添え

U一郎を、ゆっくり立たせようとした。


すると、U一郎は跳ね上がるように立ち上がり、

「降りるよーぉっ!まぁーたぁー、乗ろうねぇーっ!」

と大声で叫び、目を見開き、口を半開きにして、ひきつりながら、

バスの車内をダッシュで走り、乗降口へ向かった。


私は、慌ててU一郎について走りながら、みんなに大声で謝った。

「御迷惑をおかけしました、すいませんでしたっ!」


「どうしよう、2人とも見失なってしまうかも!あぁ!」

全身に鳥肌が立ったのを感じつつ、バスの乗降口を降りると、


O次郎を、バスの外で見守ってくれていた男性が、

大声で泣いているU一郎とO次郎の腕を掴んで、

私を、待っていてくれた。


「あぁ、ありがとうございます。本当にすみません。」

頭を繰り返し下げて、男性に何度もお礼を言うと

「いやいや、じゃ。」

と、言葉少なに会釈し、バスの中へ、スッと乗り込んだ。


バスが走り去るのを、呆然として見送りながら、

Tシャツの袖をつかみ、確保している子供たちを見ると、

2人とも泣きながら、髪をつかみ合ってケンカを始めた。


「いい加減にしなさいっ!もう、やめてよ!」

思わず叫んで叱ったが、2人は全く言うことを聞かない。


そこで、バッグから取り出した迷子ひもを2人に取り出し、

迷子ひもで、絡み合う2人を同時にひっぱりながら、

2人をバス停から少し離れたところへ連れて行った。








そして、無理やり2人の間に入って引き離し、

おんぶするように、O次郎を背中に抱き着かせ、

だっこするように、U一郎を私の前に抱きかかえた

アスファルトの上に、座り込んだ。


バスが、3、4台くらい通り過ぎた頃だろうか、

O次郎が、「おなかすいた、ママー」と言い出した。


ゆっくり2人を立たせ、両側で子供と手をつなぎながら、

うつ向いて、トボトボと家へ向かった。


服も靴も荷物も、みんな、雨ですっかり湿っていた。

みじめで、カナシクて、目を開いて歩けなかった。


途中で、見知らぬ中高年くらいの女性に声をかけられた。

「どうしたの?だいじょうぶ?」


唾を飲み込んで何とか笑顔を作り、うなづいて通り過ぎた。


バスで子供を見守ってくれた男性のことも思い出し、

見知らぬ他人の優しさに、固くなった気持ちが緩んだ。


口の両端が大きく下がり、顔がゆがみ、涙が零れ落ちる。


「ごめんね、O次郎。ごめんね、U一郎。」

小さな声で、やっと謝ると、

子供たちは、私の腕にからみつき、顔をこすりつけた。


   

   



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