児童文学の名作「ごんぎつね」や「てぶくろをかいに」の

作者としてよく知られている新美南吉。


童話「でんでんむしのかなしみ」は、

昭和10年に発表された全文カタカナの短いお話で、

眞子様のおばあ様にあたる美智子様が

紹介された童話ということでも、よく知られている。


    


新美南吉は、29才の時に結核で亡くなったという。

彼はどのような「カナシミ」と向き合って

この作品を、書き上げたのだろうか。




「でんでんむしのかなしみ」 新美南吉




一匹のでんでん虫がありました。




ある日、そのでんでん虫は、

たいへんなことに気がつきました。



「わたしは、今までうっかりしていたけれど、

わたしの背中の殻の中には 

かなしみがいっぱいつまっているではないか」

このかなしみは どうしたらよいでしょう。




でんでん虫は

お友だちのでんでん虫のところにやっていきました。




「わたしは もう 生きていられません」

と そのでんでん虫は お友だちに言いました。




「なんですか」

と そのお友だちのでんでん虫は聞きました。




「わたしは なんというふしあわせなものでしょう。

わたしの背中の殻の中には

かなしみがいっぱいつまっているのです」

と はじめのでんでん虫が話しました。




すると お友だちのでんでん虫は言いました。




「あなたばかりではありません。

わたしの背中の中にも かなしみは いっぱいです」




それじゃ しかたない と思って、

はじめのでんでん虫は、

べつのお友だちのところへ行きました。




すると そのお友だちも言いました。

「あなたばかりじゃ ありません。

わたしの背中にも かなしみはいっぱいです」




そこで、はじめのでんでん虫は

また べつのお友だちのところへ行きました。




こうして お友だちをじゅんじゅんに たずねて行きましたが、

どの友だちも 同じことを言うのでありました。




とうとう、はじめのでんでん虫は 気がつきました。




「かなしみは だれでももっているのだ。

わたしばかりではないのだ。

わたしはわたしのかなしみを こらえていかなきゃならない」




そして、このでんでん虫は もう なげくのをやめともたのであります。


    


でんでんむしは、からだの成長と共に

背中の殻もだんだん大きくなっていく。


このでんでんむしは、

成長と共に大きくなるだろうカナシミを

こらえ続けることができるだろうか。


また、そのカナシミを小さくする術を

学ぶことができるのだろうか。