私がなくなった母親。 [カナシミ]
O次郎は、時々、するどい質問をする。
「ママは、何して遊ぶのが好きなの?」
「ママは、本当は、どんな服が好き?」
どちらも、答えることができない。
好きなものとか、したいこととか、
もう、何もなくなくて、思いつかないから。
子供たち、2人ともに、障害があることがわかり、
その障害が、日常生活の流れを乱すようになってから、
私は、今までの私を、見失った。
子供たちは、毎日、モノを壊し、唾を吐き、
ケンカをして、奇声をあげて、走り回る。
他の子供が自然に覚えてできるようになることが
何度やっても覚えられず、できないことも多い。
私は、大量の洗濯と、膨大な片付けと掃除で
一年中、追われ続け、終わりは見えない。
子供たちのことで、よく、誰かに何かを謝って
解決できそうもない心配を、常に抱えている。
いつの間にか、私が身につけるものは、色を失くし、
いつも、汚れが目立たないものを選ぶようになった。
いつでも、美容院に行けるわけではないので、
髪は、家で、自分でカットして、
オールバックで後ろで一つにまとめるようになった。
不器用で、上手に食べられない子供達の食事の介助のため、
私は、食事を作っている時に、立って食べてしまうか、
もう食べないまま、過ごすようになった。
そのおかげで、今、人生で一番スリムだけど。
そして、スマホの検索は、子供のことばかり。
好きだった音楽や好きだった映画は、何だっけ。
どこのお店の服を、よく買いに行っていたっけ。
最後に、1人でふらっと出かけたのは、いつだっけ。
私は、自分の親に、名前をつけてもらって
1人の人間として、育ててもらったけれども、
その名前は、もう、誰かと分別するための
ただの記号にすぎなくなっている気がする。
こんなお母さん、嫌だよね。
ごめんね。こんなことになって。
ごめんね、U一郎。ごめんね、O次郎。